すきま怪談番外編・31『キノコの山』

とある秋のこと。

Dさんは
友人たちと
キノコ狩りに行った。

林に着き
足もとを見ながら
ウロウロしていると

たくさんのキノコがはえている
場所を見つけた。

「ねぇ、
 みんな、こっち来てよ!」

うれしくなって
仲間たちに声をかけると

「そ、それより
 上、上ッ!」

青ざめた顔で
あわてている。

うながされるまま
見上げると

なにかが
ロープにつながれて
ぶらさがっているのに気づいた。

顔。

女の顔だ。

「うわッ!」

Dさんは
腰を抜かして

キノコの山に
尻もちをついてしまった。

すると
ベキャベキャ
という音とともに

背後からあらわれた
2本の腕に

しがみつくように
抱きしめられたのだ。

パニックになった
Dさんを
友人たちが
助け出してくれたのだが、

その瞬間、
気を失ってしまった。


どうやら
自死を選んだ女性の全体重が
ロープにのしかかり、

そのせいで
首が引きちぎれてしまったらしい。

そして地面に落ちた
体の栄養で

大量のキノコが
育っていたのだった。


あれから
時がたったが、

Dさんはいまだに
スーパーでキノコを売っているのを見ると

あのときの
すさまじいニオイと

背後から抱きしめてきた

首のない腐乱死体の感触を

思い出してしまうのだという。




けんさくさん (桜洋出版)

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