Dさんは
友人たちと
キノコ狩りに行った。
林に着き
足もとを見ながら
ウロウロしていると
たくさんのキノコがはえている
場所を見つけた。
「ねぇ、
みんな、こっち来てよ!」
うれしくなって
仲間たちに声をかけると
「そ、それより
上、上ッ!」
青ざめた顔で
あわてている。
うながされるまま
見上げると
なにかが
ロープにつながれて
ぶらさがっているのに気づいた。
顔。
女の顔だ。
「うわッ!」
Dさんは
腰を抜かして
キノコの山に
尻もちをついてしまった。
すると
ベキャベキャ
という音とともに
背後からあらわれた
2本の腕に
しがみつくように
抱きしめられたのだ。
パニックになった
Dさんを
友人たちが
助け出してくれたのだが、
その瞬間、
気を失ってしまった。
どうやら
自死を選んだ女性の全体重が
ロープにのしかかり、
そのせいで
首が引きちぎれてしまったらしい。
そして地面に落ちた
体の栄養で
大量のキノコが
育っていたのだった。
あれから
時がたったが、
Dさんはいまだに
スーパーでキノコを売っているのを見ると
あのときの
すさまじいニオイと
背後から抱きしめてきた
首のない腐乱死体の感触を
思い出してしまうのだという。
けんさくさん (桜洋出版)
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