とある連休中。
仲間たち四人で一台の車に乗り、
幽霊が出るというトンネルに向かった。
トンネルの真ん中に止まり、
数回クラクションを鳴らすと
女の霊が出る、
という
ありがちな場所だったが
緊張と好奇心で、
全員が汗だくになっていた。
けっきょく、霊を見ることはできなかったが、
それはそれで、たのしい思い出になった。
帰り道、
コンビニに寄ってから帰路に着くと、
「な、なぁ。ミポリン……。
ミポリンだよ……」
と仲間のひとりがつぶやく。
かつて大人気だった
有名アイドルのあだ名だ。
「は?
なに言ってんの、オマエ?」
わけがわからず聞き返すと、
「だ、だから、
ミポリンだって言ってんじゃん!」
キレた口調で
うずくまるように下を向く。
そのままガタガタと震えはじめたので、
とりあえずそっとしておこうという雰囲気になった。
しばらく走って県境を超えたころ、
「あぁ~、よかった。
やっといなくなった」
下を向いていた仲間が
解放されたように、大きく深呼吸した。
「なんなんだよおまえ、さっきから」
そうたずねると、
「だってさ、コンビニから出たらさ、
車に女が乗ってたんだぞ。
ありゃ、幽霊だよ」
興奮しながら言った。
車内には男ばかりが四人。
むさくるしさを絵に描いたような車内で、
女性の気配なんか一ミリもない。
もちろん、女の幽霊なんて誰も見ていないのだ。
「……え?
それでミポリンミポリン言ってたの?」
「そうだよ! せっかく教えてんのに
無視してさ」
腹を立てながら言う。
「で、なに?
その幽霊がミポリンに似てたの?」
おそるおそる聞いてみると、
「ちがうよ。歌だよ歌ッ!」
と語気を荒げる。
「――は?」
それでもやっぱりわからない。
すると、
「だぁらッ!
〈ツイてるねノッてるね〉って歌のことだよ!
わからずやッ!」
なぜか顔を真っ赤にしながら、怒鳴った。
どうやら幽霊の存在を直接教えてしまうと、
自分が呪われてしまうかもしれないと、
暗号を送ったのだそうだ。
その後、
彼のあだ名がミポリンになったのは当然である。
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