わんにゃん怪談 『置き手紙』


座敷犬のタロウくんは、50代の夫婦といっしょにくらしている。


畳に座る旦那さんの左側がタロウくんの定位置だ。


そこでごろりと寝ころがり、旦那さんにあまえる。


なぜ旦那さんの左側なのか。


それにはこんな理由があった。



ある日、旦那さんが取引先にむかう途中、駅前でタクシーに乗った。


ロータリーをでたあたりで、足もとに茶封筒が落ちているのに気づいた。


そっとひろいあげ、中をのぞく。


運転手にはいわなかった。


現金か商品券でも入っていればそのままネコババしようとおもったからだ。


しかし中には便せんが一枚あるだけだった。


とりあえずぬきだしてひろげてみると、



『逃げて。すぐ逃げて』



と書いてある。



なんだこれ?



旦那さんはすこし気味が悪くなり、



「あのう、運転手さ――」



と話しかけたとき、タクシーが交差点にはいった。


だが、進行方向の信号は赤だった。



「――ぅああッ!」



旦那さんが叫ぶ


瞬間、脇からダンプカーが突っこんできた。


とてつもない衝撃で、運転席はグシャリとつぶれ、運転手は即死。


旦那さんも大ケガをし、数本、右手の指をうしなった。



それ以来、旦那さんは左手でタロウくんをなでるのだ。


※電子書籍化する際に、『ネコいぬ怪談』に変更いたしました。


ネコいぬ怪談



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