わんにゃん怪談 『ゴミ屋敷』


東海地方のとある町に住む、ノラネコのセナくんにこんな話を聞いた。



「オレの縄張りの中にな、ゴミ屋敷があったんだよ」



そこには七十歳をすぎた男性がひとりで住んでいたという。


どこかからもち帰った空き缶や粗大ゴミが室内や庭にあふれかえっていて、悪臭や害虫、ネズミなどが多く発生する原因になっていた。


さらにはそのゴミが敷地の外にもはみでていて、通行人の邪魔になっている。


近くには小学校があり、通学路にもなっているので、なんども役場の職員がゴミの撤去をするように説得をつづけてきたが、家主の男性は首をたてにふらない。


そしてついに行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)ということになった。


つまり、役所が住人にかわってゴミ屋敷を片づけることとなったのだ。



「まぁ、オレにしてみりゃあそのへんでネズミをよく見かけるからな、腹が減ったときは待ちぶせしたりして、けっこうたすかってたんだけど。人間たちには耐えられなかったんだろうな」



当日、セナくんは近くのブロック塀の上からその状況をながめていた。


住人男性は声をあらげて反対したが、もうどうすることもできない。


役場の人間と掃除業者が、内部をながめながら打ちあわせをしている。


すると、



「あのぅ。二階はキレイなんですよね。ゴミひとつないんですよ。まるで潔癖症の人がくらす部屋みたいです」



業者のひとりが首をかしげながら報告した。


偏屈なオヤジだからそんなこともあるかもしれないな、と全員が鼻で笑った。


やがて手際のいい業者たちによって、どんどんゴミがなくなっていく。


そのようすを見ていた男性は、



「やめろぉッ! やめてくれぇッ! そりゃあゴミじゃねぇッ! ゴミなんかじゃねぇんだッ! バリケードッ! バリケードなんだよッ!」



わけのわからないことをいい、走り去っていくトラックにすがりつくと、涙を流して手をあわせた。


そのようすがあわれをさそったが、ゴミがなくなった風景はすがすがしいものであった。



翌日の明け方。



「ぎぃええええええええええッッッ!!!!!」



という大声が響いた。


聞いた人の魂を震えあがらせるような絶叫だった。


異変に気づいた近所の住人たちが窓を開ける。


と同時に、ゴミ屋敷に住む男が外に飛びだしてきた。


はだしのままの男はまるで何かをふりはらい、逃げているようだった。


そして通りの真ん中で倒れこむと、自分のノドをかきむしりながらバタバタもがき、ついに絶命した。


よほど深くひっかいたのか、指は深く食いこみ、皮膚と肉が裂け、ノド仏や食道が見えていたという。



「あの人間が死んでから家はすぐに壊されたんだけどな、床下から古い井戸がでてきたんだよ」



男性がなにかにおびえるようにして絶命した理由、そして、何年もゴミを集めていた理由がそのあたりにありそうな気もするが、



「それ以上はわからねぇな」



と、セナくんは去っていってしまった。



※電子書籍化する際に、『ネコいぬ怪談』に変更いたしました。


ネコいぬ怪談

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

RSS取得