怪談  『お・も・て・な・し』


ある日、婦人会会員の旦那さんが急な事故で亡くなったと聞いた。


なかなかひどい水難事故だったらしく、棺桶の窓は閉ざされたままだったらしい。


それで婦人会を代表し、葬儀が終わってから数日後にその家をたずねることにした。


個人的にあまり深いつきあいはないが、たしかコーヒーが好きな旦那さんで、休日にはいろんな喫茶店をたずねるのが趣味だったと記憶する。


会からの香典と、コーヒーのにおいがする線香を持参した。


仏壇に手をあわせ、気落ちしている奥さんにお悔みを言ってると、台所のほうから戸棚を開ける音やカチャカチャいう食器の音が聞こえてくる。


なんとはなしに、



「親せきの方でもお手伝いにきてるんですか?」



とたずねたら、



「いえ、今日はわたしひとりなんですよ」



さみしそうに答えた。


瞬間、台所の音がピタリと止まった。


いっさい、なにも聞こえなくなった。


だが、引き戸のすぐむこう。


そこには濃厚な、人の気配がある。


亡くなった旦那さんがピッタリはりついている気がする。


グチャグチャの顔面で、


こちらのようすをうかがっている気がする。

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