天獄ランデヴー  第1話  『桜洋守 凌羽』

ブタや乳牛たちの死体は、腰の部分でまっぷたつに両断されていた。 大きく見ひらいた眼球のへりには、何十匹ものハエがたかっている。 季節はずれのあたたかさがつづいたからだろうか。 連休明けの五月のわりに、ハエの数が多いようにもおもえた。 まるでおまつりさわぎである。 死後硬直をすすめる三十数頭の家畜の死骸。 それらは、上半身も下半身も、切断面を下にして立てられている。 そのようすは、チェスの駒のように見えた。 東京都の西にある勝山農業高校は早朝から不穏な空気がただよっていた。 実習のために飼育されているブタと乳牛たちが、一夜にして無残な姿になりはてていたのだから当然だ。 新聞社やテレビ局のヘリコプターがせわしなく頭上をいきかっている。 「まったく……、誰がこんなことをしたんでしょうね。当直の教師の話じゃ、ゆうべの八時ころまではなんの異常もなかったそうですよ。クマとかイノシシとかのしわざですかね……? どうおもいます?」 目の前を飛ぶハエを手ではらいながら、二十代なかばの男性刑事が問いかける。 その声に、後方から歩いてくる中年太りの先輩刑事が顔をしかめ、 「アホか国分ッ。クマが殺した家畜を喰わずにわざわざ立てておくかよッ! 人間だ人間ッ! だいたいこのあたりにクマがでるかよ、バカッ、おんッ?」 荒い語気で答えた。 先輩の山端は、なにかというとどなりちらす。 いや、地声…

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