天獄ランデヴー  第6話  『隧道』

凌羽が姿を消してから、十日ほどたった。 家畜殺しの犯人も、ホームレス殺しの犯人も判明してはいない。 当然である。 その真犯人、山端が捜査本部にいるのだ。 証拠隠滅はもちろん、ミスリードもしほうだいだった。 その点はうまくいっている。 だがひとつ、不可解なことがあった。 あの凌羽とかいう若造のことを誰も探しにこないということだ。 内閣情報調査室、通称、内調に所属していながら、行方不明となった学生について電話一本かかってこない。 後輩の国分以外が凌羽の名を口にすることはなかったし、十日もたてばもはや、そんな話題もあがらなくなった。 まるでそんな青年をおぼえていないかのように日常はまわりだす。 いくら凌羽に身よりがないとはいえ、高校や内調からの問いあわせがないことが腑に落ちなかったが、やがて山端も忘れていった。 そんな日々の中でも、山端はしっかり欲求を満たしていた。 神のチカラ、神威をふるい、獲物を狩っていたのだ。 当然のことながら、警察はいまだに犯人の次なる犯行を警戒し、パトロールが強化されている。 さらには内調の特殊事案課とかいう部署の人間が、自分を監視しているかもしれない。 だから山端は、町から離れた場所に狩場をもった。 いわゆる、心霊スポットに、である。 勝山市のはずれに明治後期から、大正にかけて完成した古いトンネルがある。 数十メートルほどつづくトンネル内部…

続きを読む

RSS取得