わんにゃん怪談 『干し柿』
北関東に住む柴犬のハッピーくんにうかがった話だ。
ハッピーくんのご主人であるK田さんは40代の終わりに脱サラし、数年の修行のあと、県道沿いで日本ソバ屋を経営しはじめた。
オープンはじめのころは勝手がわからず、とまどいながら四苦八苦した。
だが家族の協力もあり、今ではなんとか軌道に乗り、他県からの客もおとずれるようになった。
そんなK田さんがハッピーくんの散歩がてら、店で使う山菜を裏山にとりにいったときのことだった。
見なれない6人の男女が山道を歩いてきた。
年代もバラバラな一行は、スーツ姿やゴスロリ風の服などを着ている。
山にくるには似つかわしくない格好であった。
変な人たちだな。
近くにバーベキューでもしにきたどこかのサークルかな。
でも、このへんにキャンプ場なんてあったかな。
K田さんがいろいろ考えながら首をかしげていると、ビデオカメラを手にもったスーツ姿の男性がこちらにやってきて、
「あのう、もしかして○○さんですか?」
とたずねられた。
それでK田さんは、
「いえ。ちがいますよ」
と返事をした。
すると残念そうな顔で集団にもどっていき、そのことを報告したのか、
「アイツ逃げたな」
「ビビったんだよ」
無表情のまま、口々に文句をいいはじめた。
…